4月も下旬となり、北海道においても屋外での活動が活発になってきました。
学校の部活や愛好家団体などで日頃からスポーツに親しむ人たちにとっては、心待ちにしていた季節の訪れといえるでしょう。
シーズン初めの今時期はブランクのあった身体でいきなり過度な運動をしたことが原因で、ケガをして来院される患者さんが少なくありません。
本人や指導者が気を付けていれば、防げるケガも多くあるのです。
今回から数回にわたり、シーズン初めに注意したいケガについて取り上げます。
第一回目は「オスグッド病(以後OSD)」です。
OSDは、成長期のスポーツ選手に高頻度でみられるスポーツ障害の一つです。
膝の前面、膝蓋骨の少し下方の盛り上がったところ(=脛骨粗面部)に痛みや腫れを生じます。
発症する年齢層は、大腿骨長が増大し脛骨粗面が脆弱になる特定の時期、小学生の高学年から中学生にかけて。特に中学1年生に多く、実は私も中学で陸上部に入部直後OSDを発症しました。
原因は、大腿四頭筋の過収縮により加わった牽引ストレスが、成熟な脛骨粗面に繰り返しかかることで骨端軟骨部に異常が生じるためと推察されます。
より詳しい情報は過去記事を参照ください。
大腿四頭筋を毎日ストレッチしてオスグッド病を予防
予防法の一つは、大腿四頭筋の過緊張を改善するための運動療法=ストレッチです。
ストレッチ休止により大腿四頭筋の拘縮が増加することを示した論文*1、週2回のストレッチ実施では柔軟性に変化がなかったため高頻度のストレッチが有効ではないかと考察した研究*2からすると、部活をした日は毎日ストレッチを行うのが望ましいです。
ストレッチ方法は過去記事を参照ください。
片足での着地やターンなど高負荷トレーニングの連続を回避することがOSD発症予防に繋がると示唆した報告*3もあります。
OSDが中学1年生に多く発症するのは、小学生から中学生になり練習量が急に増えるからとも言われています。
ですので、成長期にあたる新入生は一定期間、上級生の部員よりも負荷を軽くしたり、回数を減らしたりするなど別メニューを採用することが重要になります。
これは私が関係するスポーツ団体の指導者にお願いしていることになります。
早期治療で早期復帰を
治療は安静(スポーツ休止)やアイシング、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、運動療法(=大腿四頭筋のストレッチ)といった保存療法を用います。
一般的には骨の成長(=脛骨粗面の骨化)が完了すれば改善するといわれ、私も練習量を調整することで中学2年には症状が改善しました。
ポイントは、初期や進行期までに適切な治療を選択することです。
「早い段階で治療すれば骨性修復や症状の早期改善が期待できる」とする研究報告*4があります。
遊離骨片の存在する終末期まで進行させなければ、比較的早期の復帰が可能となります。
遊離骨片が残存して痛みが持続する場合、骨片摘出の手術を行うケースもあります。
膝に痛みを覚えたら、速やかにスポーツ障害に対応した整形外科を受診してください。
正確な診断には、圧痛の確認など臨床所見(=医師による触診や問診)と同時に、X線やMRIなど検査機器の画像による脛骨粗面の軟骨の状態把握が必須です。
小中学生では不調を正しく説明できなかったり、休むことに抵抗があって「大丈夫」と言ってしまったりということが少なくないと思います。
家族や指導者など周囲の大人が気づき、受診や休息を奨めるなど、早期治療・早期復帰を支えてあげて欲しいですね。
次回は4月5月に多く発症するとの統計がある「肉離れ」を取り上げたいと思います。
更新はまた少し先になりますが、どうぞご理解のほどよろしくお願いします。
<参考>
*1 皆川孝昭,和田野安良:短期間のトレーニング休止が身体所機能に与える影響/成長期男子アスリートを対象として.茨城県立医療大学紀要,14:11-22,2009.
*2 Ortiz A, Trudelle-Jackson E, McConnell K, Wylie S. : Effectiveness of a 6-week injury prevention program on kinetic variables in adlescent female soccer players : a pilot study. P R Health Sci J, 29 (1) : 40-48, 2010.
*3 Itoh G, Ishii H, Kato H, Nagano Y, Hayashi H, Funasaki H. Risk assessment of the onset of Osgood-Schlatter disease using kinetic analysis of various motions in sports. PLoS One. 2018 Jan 8;13(1):e0190503. doi: 10.1371/journal.pone.0190503. PMID: 29309422; PMCID: PMC5757930.
*4 Hirano A, Fukubayashi T, Ishii T, Ochiai N. : Magnetic resonance imaging of Osgood-Schlatter disease: the course of the disease. Skeletal Radiol, 31 (6) : 334-342, 2002.