前回に続き、今回もビタミンDの話題を取り上げます。
まず前回のおさらいです。
ビタミンDは食べ物から摂取する他、陽を浴びることにより体内での合成が可能で、肝臓と腎臓で代謝され活性型ビタミンDとなります。
この活性化ビタミンDがビタミンDレセプターと結合することで、骨格その他の生体機能に関わる多くの遺伝子の発現を調整。正常な骨の発達や維持の他にも免疫、内分泌、心血管系に対して多くの効果を発揮します。
ですが現在、全世代でビタミンD不足との調査報告があります。
そこで今回ビタミンDが不足すると、どのような疾病やリスクを生ずる可能性があるのか、整形外科に関わる部分を紹介します。
骨粗鬆症・骨折リスク
骨粗鬆症は骨の量(骨量)が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる疾病です。
詳しい内容は、下記の過去記事をご参照ください。
骨粗鬆症の要因は複数ありますが、その中でもビタミンD不足は重要な病因学的要素となりえます。
(一社)骨粗鬆症学会「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」によれば国内の骨粗鬆症患者数は女性980万人、男性300万人に及びます。また60~70歳の女性の3分の1、80歳以上の女性の3分の2が骨粗鬆症に影響しているとの研究報告※1もあります。
また大腿骨頚部骨折患者および対照群(平均年齢83歳)の症例対照研究※2で、血清中の25(OH)D濃度およびビタミンK1濃度がともに低いと、大腿骨頚部骨折のリスクが高まるという関連性が明らかにされています。
筋力への影響と転倒リスク
転倒経験者840人と非転倒経験者1,330人による観察研究※3のメタ解析で、転倒経験者は非経験者に比べ血清中の25(OH)D濃度がかなり低いことが明らかにされています。
また同研究では、ビタミンD不足と転倒リスクの間に控えめながらも有意な逆相関があることも報告されています。
ビタミンD不足(血清25(OH)D濃度が20ng/mL未満)の状態にある閉経後の女性(50~65歳)160人による最近の無作為化二重盲検プラセボ対照試験※4では、1,000 IU/日のビタミンD3を補給することで、上肢および下肢の筋力が大きく改善したそうです。さらにビタミンD3を補給しなかった群の転倒リスクは、補給した群よりも2~3倍高かったと報告されています。
筋肉痛
持続する非特異性の筋骨格痛を診てもらうため米国ミネソタ州の診療所を受診した患者150人の横断研究※5では、93%にあたる140名が血清25(OH)D濃度が20ng/mL未満、平均12.1ng/mLであるという、ビタミンD不足を呈しています。
今回ビタミンD不足あるいはビタミンD補給というキーワードで疾病に関する研究をリサーチしたところ、自己免疫疾患や心血管疾患、感染症などと関わるものも見られました。
私自身、適切量のビタミンD補給に努める必要性を感じた次第です。
<参考文献>
※1 Wacker M, Holick MF. Vitamin D - effects on skeletal and extraskeletal health and the need for supplementation. Nutrients. 2013;5(1):111-148.
※2 Torbergsen AC, Watne LO, Wyller TB, et al. Vitamin K1 and 25(OH)D are independently and synergistically associated with a risk for hip fracture in an elderly population: A case control study. Clin Nutr. 2015;34(1):101-106.
※3 Annweiler C, Beauchet O. Questioning vitamin D status of elderly fallers and nonfallers: a meta-analysis to address a 'forgotten step'. J Intern Med. 2015;277(1):16-44.
※4 Cangussu LM, Nahas-Neto J, Orsatti CL, et al. Effect of isolated vitamin D supplementation on the rate of falls and postural balance in postmenopausal women fallers: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Menopause. 2016;23(3):267-274.
※5 Plotnikoff GA, Quigley JM. Prevalence of severe hypovitaminosis D in patients with persistent, nonspecific musculoskeletal pain. Mayo Clin Proc. 2003;78(12):1463-1470.